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外科

より詳しい治療方法の説明

食道癌治療

食道癌の治療には、1) 内視鏡的粘膜切除術、2) 手術、3) 術前化学療法+手術、4) 根治的化学放射線療法(CRT)があります。食道癌診療ガイドラインに準じて(図1)、癌の進行状態、手術を受ける予備力を十分に考慮して治療方針を決めております。患者様、ご家族と十分に相談し、個々の症例に応じた治療法を選択しています。

図1 食道癌診療ガイドラインによる治療アルゴリズム(引用)

内視鏡的切除が不可能なステージIまでの患者様で、手術を受ける予備力のある患者様には、根治術として手術をおすすめします。ステージII-IIIの患者様には、標準治療として術前化学療法+手術をおすすめしています。全国規模のJCOG9907臨床試験の術前化学療法+手術の5年生存率は50~60%であるのに対し、JCOG9906試験の根治的化学放射線療法(CRT)の成績は、晩期放射線障害による死亡もふくめ5年生存率は30~40%でありました。当院のステージIIの患者様の根治手術後の5年生存率は64.7%、ステージIIIの5年生存率は43.9%であります(図2)。

図2 当院の食道癌の切除症例の予後

食道癌の手術は、かつて頚部、胸部、腹部を開けて行う比較的に侵襲の大きい手術が行われてきました。当施設では、内視鏡、腹腔鏡の技術を取り入れ、安全性や根治性を維持しつつ肺や全身への負担が少ない、体にやさしい鏡視下食道癌根治手術(非開胸・鏡視下頸部・経裂孔アプローチによる食道癌根治術)を行っております(図2)。体力維持、合併症回避のための術前および術後栄養療法、リハビリ療法も積極的に行っています(図3 図4)。

開胸手術に比べて、手術時間、出血量が少なく、術後肺炎が極めて少ない術式であります。術後は14日前後で退院が可能となっています。ハイリスク・高齢の患者様の手術も可能であり積極的に行っています。体力維持、合併症回避のための術前および術後・在宅栄養療法、リハビリ療法も積極的に行っています。

図3 開胸開腹手術と非開胸鏡視下手術(気縦隔手術)の比較

図4 鏡視下根治手術(気縦隔手術)の治療症例 (1) 上縦隔リンパ節郭清 (2) 中縦隔・気管分岐下周囲リンパ節郭清 (3)上縦隔左反回神経周囲リンパ節郭清 (4) 下縦隔リンパ節郭清

学会報告

  1. 術後合併症予防のための縦隔鏡下食道癌手術の定型化と手技の工夫 . 小松周平 藤原 斉 塩飽保博 ほかサージカルフォーラム) 2019 年 第 32 回日本内視鏡外科学会総会 横浜
  2. 術後合併症予防のための縦隔鏡下食道癌手術手技と周術期・在宅経腸栄養療法の工夫 . 小松周平 藤原 斉塩飽保博ほか 2019 年 第 81 回 日本臨床外科学会総会 高知
  3. 食道切除・胃全摘患者に対する周術期・在宅夜間経腸栄養療法の意義と創意工夫 小松 周平 塩飽 保博 ほかパネルディスカッション 10 2020 年 第 28 回 日本消化器 関連 学会 週間 JDDW 神戸

近年増加している食道と胃の境界にできる食道胃接合部癌には、かつて下部食道切除と胃全摘術が一般的に行われていました。胃全摘は術後の体重減少や栄養障害による体力低下、免疫力低下が問題であります。近年の大規模な臨床試験により胃全摘を回避することも可能となってきました。当院では、術後のQOL維持のために、ガイドラインに準じて(図5)可能なかぎり胃全摘を回避し、腹腔鏡下に下縦隔郭清を伴う下部食道切除と噴門側胃切除による根治術を行っています(図6)。

図5 食道接合部癌におけるガイドライン指針

図6 食道胃接合部癌の治療症例 (1)-(3):食道胃接合部腺癌の内視鏡所見と透視所見 (3) 腹腔鏡下の下縦隔郭清と食道裂孔周囲・膵上縁郭清後 (4) 下部食道切除+噴門側胃切除+逆流防止機構作成後の内視鏡所見

ご高齢、併存疾患をもつハイリスクの患者様にも安心して受けていただけるよう、術前・術後のリハビリ、栄養サポート、化学療法も積極的に行っています。詳しくは、専門の外来担当医にご相談ください。

学会報告

  1. Nutritional ben e fit of proximal gastrectomy for Siewert type II/III adenocarcinoma of the esophagog astric junction. Shuhei Komatsu , Eigo Otsuji et al. 2017 Annual Congress of American College of Surgeons. San Diego , CA
  2. 食道胃接合部腺癌の各リンパ節郭清効果と噴門側胃切除の意義の評価 小松周平 塩飽保博ほか (シンポジウム 0 5 食道胃接合部癌 の術式と治療成績) 2018 年 第 80 回日本臨床外科学学会総会 品川
  3. 食道胃接合部癌に対する下縦隔郭清を伴う腹腔鏡下噴門側胃切除術の手技の工夫 . 小松周平 塩飽保博ほか シンポジウム 8 食道胃接合部癌に対する治療戦略 ) 2018 年 第 31 回日本内視鏡外科学会総会 福岡
  4. 合併症回避のための食道胃接合部癌に対する気縦隔・腹腔鏡下縦隔郭清と再建術の創意工夫 小松周平 塩飽保博ほか ビデオシンポジウム 4 食道胃接合部癌に対する郭清と再建 根治性と安全性との狭間で ) 2020年 第 82回日本臨床外科学学会総会 大阪
  5. 合併症回避のための食道胃接合部癌に対する気縦隔・腹腔鏡下縦隔郭清と再建術の創意工夫 . 小松周平 塩飽保博ほか ビデオ シンポジウム 1 Standardization of surgical procedures for esophago gastric junction cancer , English oral session ) 2020年 第75回日本消化器外科学会総会 和歌山.

胃癌の外科治療

当院の胃癌の外科治療は、胃癌治療ガイドライン(図1)に準じて、胃癌を専門とする医師(日本内視鏡外科学会技術認定医(http://www.jses.or.jp/about/certification.html)、日本消化器外科学会専門医)のもとで行っております。体にやさしく安全で質の高い手術を心掛けております。

図1 胃癌治療ガイドラインによる治療アルゴリズム

当院の胃癌に対する切除症例数はESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を含めると年間250例を越えており、腹腔鏡手術の割合も年々増加傾向にあります(図2)。過去のデータ(図3)に基づいて患者さまへの十分な説明を行った上で、進行度に応じて最適な治療法を選択しています。

図2 当院の胃癌治療症例数と治療内容の変遷

図3 当院の胃癌手術症例の予後

当院の胃癌治療成績(図3)は、日本胃癌学会の全国規模調査結果とほぼ同様の結果であります。各ステージ別の治療方針の概要を以下にお示しします。

  1. 内視鏡切除の適応外のステージIの胃癌に対しては、低侵襲で術後の回復が早い腹腔鏡胃切除を行っています。腹腔鏡下に胃全摘術、幽門側胃切除術(胃下部半切除)の他、根治性を損なわない限り出来るだけ胃全摘を回避して胃を温存し、胃亜全摘(極小残胃温存術)や噴門側胃切除術(胃上部半切除)も積極的に行っています(図4)。日本内視鏡外科学会技術認定医のもとで手術を行っています。
  2. 図4 腹腔鏡下噴門側胃切除のシェーマと術後内視鏡所見. 腹腔鏡下に噴門側胃切除(胃上半切除)と食道残胃手縫い吻合を施行。逆流防止機構を作成。術後6か月目の内視鏡所見で逆流性食道炎を全く認めない。

  3. ステージII、IIIの胃癌に対しては、腹腔鏡あるいは開腹よる系統的リンパ節郭清を伴う根治手術を行なっています。腹腔鏡手術は、日本内視鏡外科学会技術認定医を取得後に十分に経験を積んだが医師が担当致します(図5)。高度のリンパ節転移や他臓器への浸潤を伴う症例には、胃癌治療ガイドラインに準じて術前化学療法後に根治術を行っています。術前・術後の栄養サポート、補助化学療法も積極的に行っています。
  4. 図5 進行した胃癌の腹腔鏡下リンパ節郭清後の所見 (1) 幽門下リンパ節郭清後 (2) 膵上縁リンパ節郭清後。

  5. ステージIV因子を伴う高度進行胃癌に対しては、ガイドラインに準じて胃切除を行わず化学療法を行います。出血や狭窄を伴う場合や化学療法を行うこと不可能な患者様には、症状緩和を目的とした手術(単純胃切除術、胃空腸バイパス術など)を行う場合もあります。ステージIV胃癌であっても化学療法が効き、画像検査や腹腔鏡検査(審査腹腔鏡検査)でステージIV因子が消失した場合(図6)は、コンバージョン手術(移行手術)による治癒切除術を行う場合があります(図7)。切除後の化学療法、栄養療法のサポートもしっかりと行っています。
  6. 図6 高度進行StageIV患者の化学療法前後の所見

図7 コンバージョン手術(移行手術):化学療法(SOX療法)を4コース施行後にStageIV因子が消失したため根治術を施行。術後3年6か月無再発で経過中。

いずれのステージの患者様にも、十分にご説明をご理解いただいてから治療をすすめさせていただきます。入院後は、クリニカルパスという標準的な胃切除治療プログラムに沿って入院生活を送っていただきます。手術1~2日前に入院していただき、術後は 腹腔鏡 ・ロボット 支援 手術で6〜 9日 、開腹手術で9日~14日で回復していただき、退院が可能となります。

退院前にはリハビリ専門スタッフや管理栄養士、薬剤師によるカンファレンスを行い、退院後の質の高い生活に向けてサポートを行っていきます。外来栄養指導や在宅夜間経腸栄養療法なども積極的に行っています。ご紹介の先生との連携もしっかり行っています。

ご高齢の患者様には、呼吸機能や体力への負担の少ない腹腔鏡手術を積極的に行い、早期に回復していただくよう治療計画を立てていきます。術前・術後のリハビリ、栄養療法、介護認定取得のサポートも積極的に行い良好な成績が得られています。詳しくは、外来担当医にご相談ください。

関連学会発表

  1. 胃上部癌における腹腔鏡下胃全摘術の郭清・再建手技の定型化と創意工夫.小松周平、塩飽保博ほか シンポジウム 10 Standardization of laparoscopic gastrectomy for the upper part of gastric cancer, Englishoral session ) 2017年 第72回日本消化器外科学会 金沢.
  2. 栄養障害・ハイリスク胃 癌患者の合併症・予後における縮小手術の意義と治療成績向上への創意工夫 . 小松周平 、大辻英吾 ほか ワークショップ 4 栄養障害を有する症例に対する外科手術成績の向上にむけて 2017年 第 117 回日本外科学会定期学術集会 横浜.
  3. 腹腔鏡下噴門側胃切除の安全で簡便な食道残胃手縫い吻合を行うための手技の工夫. 小松周平、塩飽保博ほか (ビデオワークショップ15 ここを工夫した私の手術手技(胃)) 2017年 第79回 日本臨床外科学会総会 東京.
  4. 胃癌幽門側胃切除術後の Billroth I 法と Roux en Y 法再建における鉄、カルシウム吸収障害への影響と対策 .小松周平、大辻英吾 、塩飽保博 ほか パネルディスカッション PD 10 胃切後ベストな再建法は何か? ?) 2018年 第 118 回日本外科学会定期外術集会 東京.
  5. Komatsu S, Otsuji E. Essential updates 2017/2018: Rec ent topics in the treatment and research of gastric cancer in Japan. Ann Gastroenterol Surg. 2019;3(6):581 591. Review.
  6. 胃癌術後の重度合併症・予後に関連する併存疾患・因子の評価と治療成績向上へ創意工夫 . 小松周平、塩飽保博、大辻英吾. (ワークショップ 24 消化器がん術後合併症と予後との関係 ) 2019 年第 27 回日本消化器関連学会週間 (JDDW) 神戸.
  7. Komatsu S , Kosuga T et al. Non flap hand sewn esophagogastrostomy as a simple anti reflux procedure in laparoscopic proximal gastrectomy for gastric cancer. Langenbecks Arch Surg. 2020;405(4):541 549.
  8. Komatsu S, Ichikawa D et al. Comparison of short and long term outcome s following laparoscopy and open total gastrectomy for gastric cancer: a propensity score matched analysis. Am J Transl Res.2020;12(5):2225 2233.
  9. 超高齢化時代における胃癌治療のエビデンスと創意工夫 小松周平 、大辻 英吾 、塩飽 保博 臓器別シンポジウム 5 高齢者胃癌に対する治療の工夫 2 020 年 第 58 回 日本癌治療学会学術集会 京都.

腹腔鏡内視鏡合同切除(LECS: Laparoscopy Endoscopy Cooperative Surgery)

胃・十二指腸の粘膜下腫瘍に対しては、腹腔鏡内視鏡合同胃切除(LECS)を行っています。LECSは腹腔鏡と内視鏡の双方のメリットを活かして、広範な胃切除や十二指腸切除を回避して消化管の機能や形態を保持し、術後合併症を回避することが可能な優れた術式であります(図1)。腹膜播種、遅発性穿孔などのリスクのあるハイリスクの胃・十二指腸腫瘍に対しても、closed LECS、modified NEWS、LECS補助下胃部分切除、十二指腸LECSを標準化および改良して創意工夫し、安全に手術を行っています(図2)。予備力の極めて低い患者様への安全な癌の内視鏡治療、縮小治療への応用が期待されています。十分に治療経験を積んだ、日本内視鏡外科学会技術認定医、内視鏡専門医のもとで手術をおこないます。詳しくは、専門の外来担当医にご相談ください。

図1 LECSのメリットと手術風景. (左)LECSにより胃壁の切除範囲を小さくすることが可能。(2)腹腔鏡と内視鏡のモニターを並列にして協調的に手術を行う。

図2 噴門近傍の胃GIST切除例. (1)Modified NEWS法:胃壁を開けないことで、吻合口の変形を防ぎ、全層縫合で遅発穿孔を防ぐことが可能.ハイリスク腫瘍にも有用.(2)術前と術後の比較. 胃壁の変形を認めない.

関連学会発表

  1. Laparoscopy and endoscopy cooperative surgery (LECS) as an inventive and safety treatment for non-ampullary duodenal tumor 小松周平、戸祭直也ほか. (統合プログラム 2-10 内視鏡治療と鏡視下手術のコラボレーション) 2017年 第25回 日本消化器関連学会週間(JDDW) 神戸.
  2. ハイリスク胃・十二指腸腫瘍に対するLECS手技の応用と創意工夫. 小松周平、塩飽保博ほか(パネルディスカッション 25 LECS~現在から未来へ~) 2018年 第80回日本臨床外科学学会総会 品川.
  3. 胃・十二指腸腫瘍に対するLECS手技の工夫と応用. 小松周平、塩飽保博ほか(ワークショップ 6 内視鏡と腹腔鏡のコラボレーション手術) 2018年 第31回日本内視鏡外科学会総会 福岡.

ロボット支援胃切除

「手術支援ロボット」は、外科医が操作ブースで手術支援ロボットを操ることで、開腹手術や腹腔鏡手術よりも緻密な手術を行うことが可能となるように開発された道具であります。人間の手より自由に動く多関節の鉗子と手振れ防止機能、さらに3次元画像用いることで、手術を直観的かつ緻密に行うことが可能となります。日本では前立腺、胃、食道、大腸、肺、婦人科疾患などの手術で保険収載されています。米国で2500台、ヨーロッパで500台、アジアで300台以上の手術支援ロボットが導入され、世界で年間6万件以上の手術が行われています。

当院でも2018年12月より手術支援ロボット・ダビンチXiを導入しています。十分に手術経験を積んだ日本内視鏡技術認定医、da Vinci Certificate取得医のもとでロボット支援下幽門側胃切除、ロボット支援下噴門側胃切除、ロボット支援下胃全摘手術を積極的におこなっています。より緻密で低侵襲な手術ができ 、術後6~8日で回復して退院していただくことが可能となっています。詳しくは、専門の外来担当医にご相談ください。

図1 ロボット支援胃切除の手術風景と幽門下リンパ節郭清

関連学会発表

  1. 安全なロボット支援下胃切除術の導 入のため の工夫と治療成績の評価 . 小松周平 市川大輔ほか 胃 ロボット 1) 2016年 第 29 回日本内視鏡外科学会総会 横浜.
  2. ロボット支援下噴門側胃切除のリンパ節郭清と食道残胃吻合の手技の工夫 . 小松周平 塩飽保博 ほか 2020年 第 12 回日本ロボット外科学会 東京
  3. ロボット支援下胃切除の効率的な視野展開とアプローチの創意工夫 小松周平 塩飽保博 ほか2021年第13回日本ロボット外科学会 福岡

大腸癌治療

大腸癌は近年食生活の欧米化など生活習慣の変化に伴い、日本人にも増加傾向を示しており、当院においても症例数は増加しています。当科では従来の開腹術に加え、腹腔鏡下手術を積極的に取り入れています。癌の根治性と臓器の機能温存を両立しながら、現在では進行癌に対しても腹腔鏡下手術を応用するようになりました。腹腔鏡下大腸癌手術は開腹手術に比べ傷の痛みが少なく整容性に優れており、根治性や安全性の点で劣らないことから、現在では標準治療となりつつあります。当科では臍に小開腹創をおくことで傷をより目立たなくしたり、埋没縫合で抜糸せずにすむよう工夫をしています。さらにクリニカルパスとの組み合わせにより、根治性を損なわず治療の標準化・合理化を進め、かつ術後の回復を早めることで入院期間の短縮や高いQOLを得ています。切除不能進行・再発癌に対しては積極的に化学療法を行い延命に努力するとともに、終末期には専門チームとの連携による緩和ケア治療にも取り組んでいます。

5年生存率

肝胆膵外科領域

消化器癌のなかでも、この領域は検査、診断、治療において専門的技術・知識が重要な疾患です。初診時からこの領域を専門とする消化器内科医、放射線科医、消化器外科医が密にカンファレンスを行い、治療方針を検討しております。また、治療内容をできるだけ標準化し、クリニカルパスを導入し、患者さんにわかりやすい治療を進めております。

肝切除数の年次推移

1)肝臓癌

肝臓癌は肝臓から発生する“原発性肝癌”と他臓器から転移して生じる“転移性肝癌”があります。さらに、“原発性肝癌”は肝細胞から生じる“肝細胞癌”と胆管から生じる“胆管細胞癌”の2種類があります。

肝細胞癌

肝細胞癌は、C型やB型肝炎ウイルスに感染している人や、アルコール性肝炎、脂肪性肝炎にかかられた人の肝臓から発生してくることが多い癌です。これら肝細胞癌のリスクの高い人は、早期に発見して治療開始できるように、定期的に検査を受けることが必要です。治療方法には内科的治療と外科的治療があります。
内科的治療には経動脈性塞栓療法(TAE)、経皮的ラジオ波焼灼法(RFA)、経皮的エタノール療法(PEIT)などの治療法があり、これらは消化器内科(肝臓グループ)が担当しています。1年間の治療件数は、慢性肝炎のインターフェロン療法が新規約20例、肝臓がんのエコー下穿刺法を用いた局所治療が延べ130件以上、肝臓がんの血管カテーテルを用いた塞栓療法が約180件行われています。
肝細胞癌は肝硬変が基礎疾患にあることが多いため、厳重な術後管理が必要ですので、慎重に手術適応を判断しながら原則的に肝切除術を行っています。内科的治療では根治的治療が困難な高度進行肝癌症例も積極的に切除を行っております。 どの治療を選択するかは、内科と外科で綿密に検討を行い治療方針を決定しています。
外科的治療に関しては、肝細胞癌治療アルゴリズム(図1)を参考にしながら、術前に、腫瘍の局在、肝予備力、予想残肝容積を厳密に3−D画像を用いて検討しています(図2)。

(図1)肝癌治療アルゴリズム(肝癌診療ガイドライン2013年版より引用)

(図2)術前画像シミュレーション

肝内胆管癌

肝臓内の胆管から発生する癌で、肝臓がんに含まれていますが、性格は胆管癌と似ており、リンパ節転移をきたすことがよく見られます。また肝細胞癌のような肝臓内の局所療法はなく、原則手術療法が第一選択となります。

転移性肝癌

転移性肝癌の原発巣の多くは大腸癌です。大腸癌肝転移に対しては、まず第一に肝切除が最も長期生存が期待できる治療法です。複数個の転移があっても、術前に3D画像でシミュレーションし、切除可能と判断すれば、R0(肉眼的に癌を取りきる)完全手術を行っております。
近年の化学療法の進歩が著しく、進行大腸癌において、全身化学療法で良好な成績が出ております。よって、発見時すでに多発の肝転移が認められる症例は大腸肝臓同時切除する個あり、全身状態、がんの進行具合によっては全身化学療法を先行し、切除可能となれば、積極的に肝切除を行っております。

・腹腔鏡下肝切除術

2012年より腹腔鏡下肝切除が保険承認されました。当院でも、患者さんの負担の軽減、術後の痛みの軽減、早期回復を目的に肝切除にも腹腔鏡の技術を導入し、約1-2cmの傷数カ所で手術を行っています(図3)。適応は肝表面の比較的小さな腫瘍に対する肝部分切除と外側区域切除に限定しています。しかし、2016年4月より肝亜区域切除から肝区域切除、肝葉切除に保険適応が拡大されましたので、今後、安全性をしっかりと確保しつつ、手術適応を拡大して行くことにしています。

腹腔鏡下肝切除術後の創部

腹腔鏡肝切除術の術中写真

(図3)

2)胆嚢癌、胆管癌

胆嚢癌

胆嚢癌に対する基本的な治療は外科的切除です。癌の存在部位や進行度に応じて様々な術式が選択されます。
下記「胆嚢腫瘍アルゴリズム」にのっとって術式選択を行います。
粘膜内に限局する胆嚢癌は、腹腔鏡下(開腹)胆嚢摘出術で十分根治可能です。もう少し深いところまで癌が浸潤している場合 、拡大胆嚢摘出術といって、胆嚢と胆嚢に近い部分の肝臓を少し切除します。
やや進行した胆嚢癌では、胆嚢管や胆管周囲のリンパ節に転移を認めます。 実際、胆嚢癌は高度に進行した状態で診断されることも多いのが現状です。そこで、胆管に添ったリンパ節を完全に摘出するために胆管を切除し、肝臓の一部の区域をあわせて切除することがあります。胆嚢癌が十二指腸に浸潤している場合や転移リンパ節が膵臓に浸潤している場合は膵頭十二指腸切除術(膵臓、十二指腸も一緒に切除する手術)が行われます。また、癌が肝臓に深く浸潤している場合、肝臓の1/2~2/3を切除する肝葉切除が施行する場合もあります。
術前診断のつかない腫瘍性病変に対しては、消化器内科(胆膵グループ)と十分連携し、侵襲の少ない検査、治療から行い、病気の進行度、悪性度に応じて追加治療などを進めていくことにしています。

胆管癌

胆管癌は術前検査、術後治療、精査など外科だけで治療が進みません。
悪性と診断がつかない場合、手術適応を決めるにあたり、内科と合同で検査を進めることがあります。
例として、胆道鏡を用いることで、腫瘍の正確な肉眼形態、正確な腫瘍場所、正確な大きさ、確実な生検、また超音波内視鏡を併用することで胆管内での進行の範囲、進行の深さなどがこれまでよりより正確にわかり、手術適応の判断や必要かつ十分な手術術式決定ができます。
肝門部に近い胆管癌は肝切除が行われます。膵臓内を走行する下部胆管癌の場合は、膵頭十二指腸切除が行われます。
さらに、術後再発した腹腔内腫瘍のため胆汁の通過障害があれば、消化器内科で内視鏡下にステント挿入することで開腹手術を回避できたり、積極的に内科外科が連携しており低侵襲治療に努めています。

3)膵癌

膵癌の手術症例数の年次推移

膵癌

膵臓は腹部の中で奥深いところにあり、病気が発生しても症状が出にくく、早期発見が難しいため進行癌で見つかることが多いのが実情です。当院では、エコー・CT・MRI・超音波内視鏡検査などを駆使して、積極的に早期発見につとめています。最近は近隣のかかりつけ医の先生方と連携して早期発見のプロジェクトを進行中です。

膵癌の特性として、腫瘍の大きさが小さくても、悪性度が高く、また周囲の組織(神経、胆管、リンパ節)に転移・浸潤しやすいため、根治手術が難しかったり、再発しやすかったりします。
膵癌の手術は大きく2つに分けられます。膵頭部癌では膵頭十二指腸切除術、膵体尾部癌では膵体尾部切除が行われます。膵頭十二指腸切除術(膵頭部・十二指腸・空腸の一部・胃の一部・周囲のリンパ節を一塊に切除する手術)は、消化管の手術の中でも最も難易度の高い手術のひとつですが、当院ではこのような手術も安全に施行しております。また近年の流れでもある縮小手術にも取り組んでおり、悪性度の低い膵腫瘍に対しては、機能温存手術(膵部分切除、膵分節手術、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術、血管温存十二指腸切除術)を施行しています。進行膵癌に対しては、手術だけでは限界があるので、放射線療法、化学療法(抗癌剤)などを追加するようにしていますが、長期生存が得られる症例はまだ少ないのが現状です。
最近では、複数の抗癌剤が開発され膵がんにも有効な治療が増えつつあります。実際、切除不能であった進行膵癌が抗癌剤で著効を示し、手術が可能となった例も見られます。当院ではさまざまな補助療法を組み合わせて、患者さんの希望に沿った治療選択に努めています。

・術前放射線化学療法

進行膵癌に対して手術単独の治療では限界があり、症例により放射線療法や化学療法などを追加しています。化学療法の進歩(ゲムシタビン、ティーエスワン、ナブパクリタキセル)により生存期間の延長が見られ、切除不能であった進行膵癌が抗癌剤で著効を示し、手術が可能となった患者さまもおられます。
さらに、近年、術前化学放射線療法(NACRT)により、根治切除が可能になったり、生存期間が延長する例も見られ、消化器内科や放射線科と合同カンファレンスを行い積極的にNACRTを行っております。(図4)

(図4)

・IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)、P-NET(膵神経内分泌腫瘤)

また当院の消化器内科は膵、胆道の検査が京都で最も多い施設の1つで、癌化の可能性が高いIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)が発見される例が多く、国際ガイドラインに準じて診断治療を行っています。また、近年神経内分泌腫瘍(NE N)の概念も確立し、P-NE N(膵神経内分泌腫瘤)の手術症例も増えています。

・腹腔鏡下膵切除術

腹腔鏡手術については、導入時は低悪制度膵腫瘍に対してのみ保険承認されていましたが、2019年から膵癌に対しても保険適となりました。当院も侵襲が少なく整容性に優れ疼痛が少ない腹腔鏡下手術を積極的に取り入れています。(図5)

(図5)

日本肝胆膵外科学会 高度技能専門医修練施設

日本肝胆膵外科学会は、高難度の手術をより安全かつ確実に行うことができる外科医師を育てることを目的として、肝胆膵外科高度技能専門医制度を立ち上げました。高度技能専門医であることは、高度技能指導医のもと、high volume centerといえる修練施設で経験を積み、認定基準に定められた手術実績数を持つ医師であることを表します。
当院では、高度技能指導医である谷口が肝胆膵外科領域の悪性腫瘍に対して、高難度手術に積極的に取り組んでおり、高度技能専門医を育てるべく指導しております。
日本肝胆膵外科学会の高度技能専門医修練施設に認定されるように、2013年に申請いたしました。認定の基準は「肝臓や膵臓などの難度の高い手術を行うことができる肝胆膵外科学会高度技能指導医が常勤し、かつ肝胆膵外科領域の高難度手術症例を行なっている施設」というものです。京都で高度技能専門医修練施設に認定されているのは、現時点で当院を含め5施設のみです。

高難度肝胆膵外科手術とは

肝胆道手術
  • 肝三区域切除
  • 肝葉切除および拡大肝葉切除
  • 肝中央二区域切除
  • 区域切除;後区域、前区域、内側区域 (外側区域は除く)
  • 亜区域切除(S1,S2,S3,S5,S6,S7,S8,であり、原則として非定型的部分切除は除く)
  • 肝移植レシピエントの移植手術
  • 肝移植ドナーの肝切除
  • 胆管切除を伴う肝切除(ただし、肝葉切除および肝S4a+S5切除以上)
  • 胆嚢胆管切除+胆管消化管吻合(先天性胆道拡張症に対するもののみ)
膵臓手術
  • 膵全摘術(残膵全摘も含む)
  • 膵頭十二指腸切除(幽門輪温存を含む)
  • 膵体尾部切除(膵癌に対するもの)
  • 膵中央切除
  • 十二指腸温存膵頭部切除
  • 膵頭温存十二指腸切除
  • Ventral pancreatectomy
  • 下膵頭切除
  • Beger手術
  • 膵移植レシピエント手術
  • 膵移植ドナーの膵切除
血管合併切除再建
  • 門脈切除再建を伴う肝胆膵領域の手術
  • 肝部下大静脈再建を伴う肝胆膵領域の手術
  • 肝静脈切除再建を伴う肝胆膵領域の手術
  • 上腸間膜動脈切除再建を伴う肝胆膵領域の手術
  • 肝動脈(腹腔動脈系)切除再建を伴う肝胆膵領域の手術

胆石症・胆嚢ポリープ

・胆嚢摘出術(腹腔鏡下・開腹)

当院の胆嚢摘出術の年間手術数は約100例。基本的には腹腔鏡下胆嚢摘出術が基本です。お腹に5~10数mmの孔を数カ所あけて、内視鏡で見ながら胆嚢を摘出します。術後の痛みが少なく、回復が早く、食事も普通に取れるようになります。上腹部手術の既往がある方は開腹手術となることもありますが、可能な限り腹腔鏡下胆嚢摘出術を選択しています。

当院ではクリニカル・パスを導入し、通常は術後3日で退院していただいています。手術される方は胆石発作をおこされた方がほとんどです。胆石症は良性疾患ですので、基本的には放って置いて良いのですが、なかには胆石症の患者さんに胆嚢癌が見つかる場合(2%程度)もあり、超音波検査を定期的に受けておかれることをおすすめします。
また胆嚢ポリープは珍しい病気ではなく、多くの健康成人のかたに認められます。ほとんどは5mm以下の小さいもので、コレステロールポリープであり、放って置いて良いものです。しかし、10mmを超えるものは、なかには癌細胞が潜んでいることもありますので、超音波検査を定期的に受けて、大きくなる場合は、摘出されることをおすすめします。

・SILS(単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出手術)Single Incisional Laparoscopic Surgery

胆石症や胆嚢ポリープの一部で条件が合う場合は、お臍に1か所の穴とは別に1か所の針穴(2mm)で行う単孔式手術も行っています。傷が目立たないこと、痛みが少ないことが特徴であるため、炎症の少ない胆嚢炎や単能ポリープなど症例を選んで行なっております。

・急性胆嚢炎治療

胆嚢炎ガイドラインが2018年に整備されました(Tokyo Guideline 2018)これに基づき必要な症例には緊急もしくは早期に腹腔鏡手術にて胆嚢摘出術を行っています。これにより患者さんの病悩期間、入院期間を短くするように心がけております。
これも消化器内科と連携をとり、患者さんに寄り添う治療を行っております。

・その他良性疾患

緊急に手術を受ける疾患の最も多い病気の1つに虫垂炎があります。手術適応がある場合、近年腹腔鏡で行うことが多くなってきました。傷が目立たないこと、痛みが少なく、入院期間が短いこと、術後癒着が少なく腸閉塞の合併症が少ないことがお勧めする理由です。これも希望に応じて行っております。

鼡径ヘルニアについて

お腹と足のつけ根の間あたりがプクッとふくらんでくる状態を鼡径(そけい)ヘルニアといいます。いわゆる「脱腸」です。

なぜ、鼡径ヘルニアが発生するのか?

鼡径部にもともと血管(男性の場合は精管)の通り道(これを鼡径管といいます)があります。この鼡径管の出口(鼡径輪といいます)がゆるんでくると、お腹の中の小腸が腹圧をかけたときに鼡径管の中に脱出します。これをヘルニア(注1)といいます。腸が鼡径管の中に出るものを内鼡径ヘルニア、鼡径管の裏の腹筋が弱くなってふくらんでくるものを外鼠径ヘルニアと分類しています。また、足の付け根の大腿筋の隙間から腸が脱出するものを大腿ヘルニアといいます。鼡径ヘルニア全体では約70%が男性ですが、大腿ヘルニアのみは女性の比率が高くなっています。

(注1)「ヘルニア」とは英語の"herniation"(=はみ出た状態)の意味で、他にも「椎間板ヘルニア」や「脳ヘルニア」などといったものがあります。

症状と手術をする理由

初期には下腹に力をいれたときにプクッとふくらみ、力を抜くと元に戻るだけですが、何ヶ月も経過すると次第に大きくなってつっぱり感や痛みがでてきます。そのときも多くは横になったり上から押すだけで元に戻ります。一旦ヘルニア状態になってしまうと自然に治るということはありません。また薬で治ることもありません。「ヘルニアバンド」という突出部を押さえる用具がありますが、大きくなってくると押さえきれなくなりますし、これを使用しても残念ながらヘルニアが小さくなることはありません。注意しなければならないのは、たくさんの小腸が鼡径管の中に入り込んで戻らなくなる「嵌頓(かんとん)状態」になる場合があることです。嵌頓した状態が数時間続くと、腸の血流が阻害されて腸が腐り(「壊死」といいます)、その部分を切除しなければならない場合もあります。たかが脱腸で腸まで切る、という事態を予防するのが鼡径ヘルニアの修復手術をする理由です。

鼠径ヘルニア根治術(メッシュプラグ法)

当院では1997年から次に示す手術法(メッシュプラグ法)を採用しており、現在までに8000件以上の手術を行ってきました。
鼡径ヘルニア手術のポイントは、

  • a. 鼡径輪に「フタ」をする
  • b. 弱くなった筋肉を補強する
の2点です。
a."plug(プラグ=栓)"という図上段のようなある素材でつくったものを鼡径輪につめ込んで「フタ」をします。b.さらにこのプラグと同じ素材のメッシュ状の膜で弱くなった筋膜を補強します。
手術時間は通常40〜60分です。麻酔は腰椎麻酔または全身麻酔のいずれかを患者さまの状態によって使い分けています。

腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術

近年は腹腔鏡下にメッシュを腹壁の内側からあてる方法も普及しつつあります(図下段)。全身麻酔が必須となり、手術時間も若干長くなりますが、傷はほとんど目立たず、術後の疼痛が軽減されます。過去に開腹手術歴のない方に適応されます。

クリニカルパスについて

ほとんどの患者さまは、クリニカルパスという当院で作成した治療計画に沿って入院期間を送っていただきます。手術の前日に入院していただき、手術の翌日には歩行できます。特に大きな持病や合併症がない限り手術の2日後に退院となります。

虫垂炎

虫垂はお腹の右下にある虫垂(盲腸のすぐ下)が炎症を起こす疾患です。
胃痛のような症状から徐々に右下に痛みの場所が移動するのが典型的とされています。あまりがまんをして放置すると膿瘍を作ったり、穿孔して腹膜炎になったりするので注意が必要です。
急性期に緊急手術をすることが多いのですが、炎症の程度によっては一旦抗生物質で散らして計画的に手術を行う方法もあります。その場合、患者さまの都合(仕事や学校)にあわせて入院し、虫垂切除を行います。手術前日に入院していただき、術後は2日で退院となります。
開腹手術歴がなければ腹腔鏡下手術を選択することもできます。