膠原病というのは、ひとつの病気ではなく、いくつかの病気の総称です。古くは、クレンペラーという 学者が唱えた次の6つの病気を指しました。
これらは、全身の皮膚や内臓・関節などのあちこちが侵されるという特徴があり、広く人体に分布する膠原線維が病気の本態ではないかと考えられ「膠原病」と呼ばれたわけです。しかし、現在では、その学説は否定され、膠原繊維ではなく、免疫の異常による血管の炎症 などが主であると考えられています。また、膠原病の範囲も、同じようなメカニズムで発病するいくつかの病気が知られるようになり、それらを膠原病に含めたり、「膠原病類縁疾患」と呼んだりするようになりだんだん広げられました。このような病気には、次のようなものがあります。 混合性結合織病、 シェーグレン症候群、 ベーチェット病、 血管炎症候群 (高安病、ウエジェナー肉芽腫症、アレルギー性肉芽腫性血管炎などを含む) 成人スチル病 など
膠原病の症状として比較的特徴的なのは、関節痛と皮疹でしょう。関節痛は、病気により、そのいたみ方や腫れ方は違いますが、「複数の関節に見られること(多発性)」と「数週から数ヶ月にわたり持続すること(持続性)」という特徴があります。皮疹も多彩でSLEでの蝶形紅斑・日光過敏症が有名ですが、それ以外にもいろいろなものがあり、時にはウイルス感染症やアレルギー性のものと区別がつきにくいものもあります。そのほか、寒冷刺激で手指や足のゆびが強い阻血状態により、白・青色に変色するレイノー現象や脱毛もよく見られます。ただし、膠原病でも発熱や全身倦怠感などのありふれた症状しかでないケースもあり、また内臓の症状である胸の痛み、腹痛、動悸、呼吸困難、手足のむくみなどが目立つこともあるので、症状だけでは診断できません。 診断のために欠かせないのが検査です。膠原病の検査所見の特徴は、3つあります。
膠原病の治療は、病気によって、またその活動性によって異なりますが、その本質は、「免疫抑制療法」とその他の支持療法があります。 本来、膠原病は免疫の異常、特に自己免疫によることが多いので、免疫力を薬で抑える免疫抑制療法は、大変合理的で、膠原病治療の中心です。そのやり方に、副腎皮質ステロイド剤とそれ以外の薬を使う方法があります。副腎皮質ステロイドは、効果が比較的確実で即効性があり、胎児への催奇形性などが少ないため若い女性にも使いやすいなどの利点がありますが、大量投与・長期投与では、感染症、動脈硬化、糖尿病、血栓症、骨粗鬆症など多くの副作用があり、病状を考慮し、慎重に投与することが必要です。その他の免疫抑制剤にはアザチオプリン(イムラン)、シクロフォスファミド(エンドキサン)、ミゾリビン(ブレディニン)、メソトレキセート(リウマトレックス)、シクロフォスファミド(ネオーラル)などがあり、病状によって使い分けられます。ただし、これらの薬には多かれ少なかれ、日和見感染症、発ガン性、催奇形性などという副作用があるため、患者様の年齢や社会状況に応じた投薬が必要になります。 支持療法として、腎臓や肺・消化器などの各臓器の症状を緩和する薬や、ステロイドの副作用を予防するためにのむ薬などたくさんの薬があります。これらは、患者様一人一人のリスクや症状の程度を考えて、使用することはもちろん、相互作用や副作用に十分気をつけて服薬していただく必要があります。
少し前まで膠原病は、「難病」「不治の病」と考えられ、癌と同じように恐れられていました。しかし、最近いろいろな施設から治療成績の報告があり、薬剤や投与法の進歩によって致命率は10年間で10-15%とそれほど高くないことがわかってきました。もちろん、治る(治癒する)ことは稀ですし、長期間の治療を余儀なくされることにはなりますが、適切な治療を受ければ切除不能癌のような絶望的な状況とは全く異なります。また、最近では、比較的軽症で見つかるケースが多く、当然治療も安全に行え、QOL(生活の質)にも、影響のないケースが増えています。 膠原病の多くは、女性に多いため、妊娠と出産ができるかという問題は大きな問題です。このことについては、一部の患者様を除いて可能になりつつあります。ただし、妊娠・出産というのは、ホルモンや免疫刺激のため、膠原病の悪化につながることの多いイベントであるため、必ず専門医の管理下で、適切な治療を受けながら臨む必要があります。
「リューマチ」といえば不治の難病、いったん罹ると「痛い、痛い」と言いながら、若くして歩けなくなり、ついに寝たきり、早死にする。そんなイメージをお持ちの方がまだいらっしゃるのではないでしょうか? この20年間で関節リウマチの治療は大きな進歩を遂げました。以前は、夢のように思われていた寛解(治療さえしていれば、ほとんど症状のない状態)が、しばしば達成できるようになり、その中から治療を中止できる事例(治癒?)もありうることが知られるようになりました。また、治療の目標が、単に痛み・炎症をとる(臨床的寛解)のみでなく関節の破壊・変形を防ぐ(構造的寛解)、身体機能の悪化を防ぐ(HAQ寛解)に向けられるようになり、患者さんの生活の質(クオリティ・オブ・ライフ、QOL)は確実に向上してきています。
関節リウマチの治療を大きく変えたのは、この十数年間の「薬」の進歩です。20年前には治療の主役であった「副腎皮質ステロイド」や「(非ステロイド系)消炎鎮痛剤」は、あくまでも症状をとるだけの薬であり、しかも副作用が少なくないことから、今ではその役割はごく限られたものになっています。それに代わって、治療の主役となったのが「抗リウマチ薬」、その代表選手がメトトレキセート(MTX、リウマトレックス)です。この薬は、重い副作用があることで、何回かマスコミにも取り上げられているので、ご存じの方も多いと思います。間質性肺炎や造血障害・感染症などは死亡例の報告もある重大な副作用ですが、それでも使い続けられているのは、週に数錠内服するだけで、投与した患者さんの約50%で効果があり、その1-2割ではほぼ寛解が得られという高い有効性があるからです。MTX以外にも、スルファサラゾピリジン(アザルフィジンEN)・ブシラミン(リマチル)・タクロリムス(プログラフ)・ミゾリビン(ブレディニン)などのいろいろな抗リウマチ薬があり、患者さんの年齢や発病からの時間・重症度などによって使い分けてられています(表4)。 抗リウマチ薬には「重い副作用がありうる」「効果の見られるのが遅い(開始後6~12週)」「途中で効かなくなることがある」など他の薬にはない特徴があります。勝手に止めたり、量を調節したりすることなく、主治医とよく相談しながら治療を続けることが大切です。
MTXなどの抗リウマチ薬が広く使われるようになり、「関節リウマチは薬でよくなる」ことが、少しずつ認められるようになりましたが、まだ十分ではありませんでした。第一に効果の出ない、あるいは副作用で治療を継続できない患者さんが50%近くおられました。第二にこれらの薬で症状が改善した患者さんでは、無治療の例よりも明らかに関節の破壊は起こりにくいのですが、5年・10年と経つと少しずつそれがみられるようになります。つまり、抗リウマチ薬では、関節の変形や機能障害は遅らせることはできても、完全に防ぐことはできなかったのです。 20世紀末、遺伝子工学の進歩により人間の体の中でいろいろな働きをしているたんぱく質の構造を作り変えて、薬として利用する「生物学的製剤」が登場しました。その一つが「TNFα阻害剤」です。体内でおこる様々な炎症を仲立ちし、関節リウマチの悪化にも大きな役割を果たす「TNFα」というたんぱく質を「抗体」や「受容体」などの別のたんぱく質を作って、働かなくしてしまうというものです。 わが国でも6年前(2003年)にこの種の薬が認可され、すでに6万人を超える関節リウマチ患者さんに使わています。有効率は高くほぼ90%、そのうち3-4割の患者さんで「臨床的寛解」といわれる状態を得ることができます。さらに、これらの薬では、抗リウマチ薬とうまく併用すれば、関節の痛みや腫ればかりでなく、その破壊・変形も完全に抑制できることがわかってきました。副作用としての重症感染症の頻度が高い、薬が高価であるなどの問題はありますが、これらの薬が関節リウマチの治療成績を飛躍的に向上させたのは間違いありません。2008年からはIL-6阻害剤という別の生物学製剤も認可され、合計4剤(表5)が関節リウマチに使えるようになり、さらに治療成績の向上が期待されています。
生物学的製剤の開発により、飛躍的に治療成績が向上した現状で、われわれリウマチ専門医には新しい課題が課せられています?まず、第一に、新しい治療の正しい評価です。抗TNF薬が使われるようになって、海外で約11年、日本ではまだ6年にすぎません。短期的には副作用のことを考慮しても、優れた治療成績でしたが、今後10年、20年と副作用や効果がどうなるのか、まだわれわれは知りません。当科でも厚生労働省科学研究や日本リウマチ学会の多施設研究などに参加することで、その検証に取り組んでいます。我々の課題の2つ目は、副作用の克服です。当科では、100人を超える患者さんに生物学的製剤を使っていますが、そのうち少なくとも5人で肺炎をふくむ重症の感染症が起こりました。これは、全国的にみるとむしろ低い頻度ですが、患者さんひとりひとりの立場にたてば大変なことです。このような副作用の頻度を減らし、不幸にして起こっても安全に対応するために、できる限りの努力と工夫をしていかねばなりません。最後の課題は、これらの薬が効かなかったり、副作用で使えない患者さん(たぶん全体の10-20%以下と思われます)をどうするのかということです。現状では、不十分でも効果のある薬を併用するなどしていますが、とても機能障害を予防できるようなレベルではありません。幸い、まもなくいくつかの新しい抗リウマチ薬や生物学的製剤が認可される予定です。当科では、一人でも多くの患者さんを、痛みと身体障害から守れるよう積極的に新規治療薬を取り入れていく方針です。